ポップ2019

アニメやロマンノワール、映画などについてまとめていきます。

都内で映画を安く観る方法

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 映画鑑賞の料金って高いですよね。都内に限りますが、知る限り安く観られる方法を紹介しますので、みんなで映画館に行きましょう。

 

 すべての劇場に共通毎月1日はファーストデイで1本1100円もしくは1200円・水曜日はレディースデイで女性は1本1100円もしくは1200円で入場可能。シニア割引・障害者割引も各劇場でほぼ共通。

 

1.TOHOシネマズ(数多くの洋画・邦画の大作をロードショー)

代表的劇場:TOHOシネマズ新宿・TOHOシネマズ渋谷など。

 【お得な制度:毎月14日「TOHOデイ」は1本1200円

①14日をトー(10)ホー(4)の語呂合わせで、サービスデーにしている。

ファーストデイ(毎月1日)は1本1200円12月1日1本1000円

auスマートパス会員(月額372円)なら、毎週月曜日1本1100円。ビデオパス会員も同様。

シネマイレージ会員は、有料で6本観ると1本無料で招待。毎週火曜日は1本1400円。6本観ると1本無料はポイント制で、有効期限は鑑賞から2年。

④一部劇場では上映開始時刻が20:00以降の作品は1本につき1300円

レディース・デイ(毎週水曜日)・シニア割引1本1200円

 

シネマイレージ会員は初回の入会費が500円で、1年ごとに更新。更新料は300円。会員がファーストデイとTOHOデイを合わせて6回観ると、1200円×6=7200円で無料招待1本を合わせて7本観られる。1本平均1028円余り。

マイルを貯めると1か月間無料で観放題というサービスもある。ここまでマイルを貯めるのは非常に困難だが、チャレンジしてみて欲しい。

会員のネット予約は劇場窓口に比較して有利な面も多く、おすすめである。新宿は深夜から朝にかけての上映もあるが、1日・14日はその時間帯の上映もファーストデイ・TOHOデイ扱いである。

 

2.SMTチェーン(松竹映画系。洋画・邦画の大作だけでなく、アニメにも強い)

代表的劇場:新宿ピカデリー

 【お得な制度:会員はいつでも1200円

 ①SMT会員(カード発行に100円かかるだけ)になって1回有料で鑑賞すると、その後2ヶ月の期限付きでネット予約で1本1200円で観られる。窓口予約は1300円。

②SMT会員にはポイント制度があり、1回の有料鑑賞で10P付与される。毎月1日のサービスデイでも可。60P貯めると1本無料で招待。

③SMT会員は誕生日に1本1000円で鑑賞できるクーポンが発行される。誕生日から2ヶ月間有効。

④毎月20日を「SMTデイ」として、1本1200円で鑑賞できる。(丸の内ピカデリー、MOVIXが対象)
シニア・レーディスデイ・ファーストデイ1本1200円

 

6回有料鑑賞すると、1200×6=7200円となる。ポイントを使って1本を無料招待で使うと、1本平均1028円で観られることになる。

会員のネット予約の方が窓口よりも早く予約を入れることができるので、人気作品を確実に観たいときにも役立つ。

 

3.T.ジョイ系列( ハリウッド大作からアニメ、マニアックな作品までカバー)

代表的劇場:新宿バルト9

 【お得な制度:夕方上映1本1300円

①平日の17:30から19:55の間に上映開始になる映画は、すべて入場料金は1本1300円。特別料金の上映には適用されないことがあるので注意。
レディース・シニア・ファーストデイ1本1200円

 

ポイント制度の導入が待たれる。

 

4.テアトルシネマグループ(マジメな映画館である)

代表的劇場:テアトル新宿ヒューマントラストシネマ渋谷など。

【お得な制度:TCG会員はいつでも1本1300円火曜木曜1000円

毎週水曜日1本1100円。会員でなくても適用される。

TCG会員は年会費1000円。加入すると1000円で鑑賞できるチケットをくれる。

会員は常に1本1300円火曜日木曜日1000円

ファーストデイ1本1100円

 

年会費が毎年かかるが、それでも週に2日サービスデイがあるのは良心的価格設計。ネット予約でも会員割引は適用されるが、会員証を窓口で提示する必要があるので注意。このTCGメンバーズカードは年々利用拡大の傾向があるので、入っておくとお得。

 

2019年1月からシネスイッチ銀座でも、この会員サービスが同様に受けられるようになっている。

 

以上を勝手に4大チェーンと呼んでます。この4系列で人気作、話題作のだいたいのところは抑えられると思います。これ以外にも割引サービスのある映画館がありますので、一部を紹介しておきます。

 

5.新宿シネマカリテ・新宿武蔵野館(ここでしか観られない映画が多い)

①毎週水曜日1本1000円

クーポン券提示で大人300円、学生・小人200円割引。公式ホームページのクーポンをスマートフォンなどで提示するか、印刷して提示する。ただし、インターネット予約では使えない。窓口で購入する場合のみに適用。

ファーストデイ・シニア割引は1本1100円

 

6.新宿シネマート(すっかり中韓の作品ばかりになってしまった)

①毎週月曜日をメンズデイとして、男性は1本1100円

レディース・ファーストデイ・シニア割引は1本1100円

毎月25日はシネマートデイとして1本1000円

TCG会員サービスを導入していて、毎週火曜日・木曜日はカード提示で1本1000円

 

7.立川シネマシティ(爆音上映で有名)

会員平日1000円土日祝日1300円。土日祝日でも20:00以降の上映開始は1000円。会員でない場合、20:00以降の上映開始は1300円。会員になるには半年会員で600円、年会員で1000円かかる。爆音上映は1回行くとまた行きたくなるので、加入しておくことをおすすめします。東京郊外の映画館ですが、1回行ってみて欲しい。いい劇場です。

 

 8.イオンシネマ(シアタス調布・イオンシネマ板橋など)

①毎週月曜日はすべて1100円55歳以上の人はいつでも1100円。午前10時台および午後8時以降に上映される作品は1300円

②ポイント制度あり。ポイントカード発行に200円。1回観ると1ポイント。6ポイント貯まると1回無料

③ファーストデイ割引で1本1100円。

④イオンカード(ミニオンズデザインまたはTGDデザイン)のものを持っていると、毎回1000円で観られる。

 

9.EJアニメシアター新宿 (アニメ映画専門館である)

水曜サービスデーは1100円

②テアトルグループが発行するTCGメンバーズカードによるサービスも適用される。火曜日木曜日はカード提示で1000円。その他の曜日は1300円

③ファーストデイは1本1100円。

TCG会員火曜日木曜日1本1000円。その他の曜日でも1本1300円

 

10.Bunkamuraル・シネマ (独自のプログラムで知られる単館の老舗)

毎週火曜日はサービスデーで1100円

毎週日曜日最終回1100円

ファーストデイ1本1100円

 

以上です。情報の誤りや内容の変更などを見つけたときは、ぜひお知らせください。

 

P.S.安く観させてもらっている映画館に感謝します。いつもありがとうございます。せめてものお礼に、いい映画はネットでお勧めしています。すべての映画と映画館とシネフィルに栄光あれ。

 

 

在宅仕事を楽しくするプレイリストを作ったから見てくれ

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 在宅勤務の諸君、こんちは。そうでない人も。元気? こっちはそれなりに元気だ。あまり頑張り過ぎない程度に頑張っている。

 頑張るのは嫌いなんだ。頑張っていることをひけらかす奴も嫌いだ。自慢じゃないが、努力しないってのがモットーなのでね。

 それはいいから、まぁ聞いてくれ。

 在宅の仕事って孤独なんだよ。自分で選んだ道とはいいながら、ときどき精神的にきついときがある。それだけならまだいい。仕方なしとして納得もできよう。ただ、困ったことに外がうるさいんだよ。近くに公園があるんだ。子供用のアスレチック的な遊具が備えてある。昼は子供たちがワラワラとやってきて遊ぶもんだから、非常にやかましい。仕事の邪魔なんだよな。だから、音楽をガンガンに鳴らすことにしてるんだ。これなら外の騒音をシャットアウトできる。集中力が増して孤独な感じも薄れるし、音楽にも詳しくなれるし、いいことしかない。 この何年も、そういった感じで仕事をしている。

 今までジャズばかり聴いていたんだけど、最近はロックだ。ジャズはアルバム1枚ずつかけっぱなしでいいが、ロックは曲を選んでリスト化した方が気分も乗りやすい。「在宅仕事を楽しくするプレイリスト」ってのは、そういう経緯で作ったわけなんだよ。面白いものができたんでお知らせしたいんだ。たぶんみんなも気に入ってくれると思う。

 一応、基準らしきものがあるんで、それも読んでくれ。たいしたものじゃない。

1.単純な構成のロックの楽曲であること。

2.ノリがいいこと。

3.覚えやすいメロディーであること。

4.バカっぽい感じであること。

 あまり意味がなさそうだけど、いいか。曲を挙げていくから、それでなんとなく分かって欲しい。かなりの曲数があるんだけど、今回は一部だけにする。リストを作るときに作業時間の目安になった方がいいと思って、1時間ごとにインストの曲を入れるようにしている。インスト曲が終わると1時間経ったことが分かるという仕掛けだ。最初の1時間分を紹介しようと思う。ぴったりじゃないよ。だいたい1時間だ。たぶん59分何秒とかだと思う。

 必死になって作ったもんでもないから、キミらも必死にならず、気楽に見てもらいたい。興味が湧いてきたらCD買うなり、ダウンロード購入するなりするといいと思うよ。ちなみに曲順にあまり意味はない。雰囲気で並べてあるだけだ。気にしなくていい。

 

1.A Little Less Conversation / Elvis Presley

定番だ。もちろんジャンキーXLミックスのやつ。1曲目にふさわしい。やる気出る。


Junkie XL, Elvis Presley - A Little Less Conversation (Elvis vs JXL) ft. Elvis Presley

 

2.Grand Funk Railroad / Footstompin' Music

グランドファンクレイルロードだ。大好きだね。すっげーバカっぽい。『アメリカンバンド』とか『ロコモーション』とかのヒット曲も多い。これはライブアルバムの1曲目。このアルバムは名盤だから聴くといいと思うよ。


Grand Funk Railroad / Footstompin' Music (LIVE)

 

3.Dr. Feelgood / She Does It Right

ドクターフィールグッドも大好きだ。この曲は特に良い。2拍のドラムイントロから続く単純明快なギターのリフがいいんだ。これだけで1曲まるごと押し切る。シャキ シャキとカッティングするだけ。最高にバカげていて、最高にロックだ。この曲が収録されたアルバムもグレートな名盤。

youtu.be 

4.ZZ Top / Stages

ZZトップもいいバンドだ。バカ向けにたくさんの楽曲を作ってくれた偉大な人たち。尊敬している。これはシンセを初めて導入したアルバムの1曲目。「ブギーとシンセサウンド合わせたら最強じゃね?」とか考えたに違いない。頭がいいとか思ったんだろうなと。出来上がったものは最高にバカな楽曲だった。


ZZ Top-Stages

 

5.Monochrome Set / Cast A Long Shadow

意味不明なポップロックの元祖的な存在。チープなオルガンと上手いんだか下手なんだか分からないコーラス。たぶんあんまり上手くない。当時はインテリが聴く音楽として扱われていたようだけど、今聴くとかなりバカ度が高い。


The Monochrome Set - Cast A Long Shadow

 

6.Slade / We're Gonna Raise The Roof

 言い忘れていたけど、バンド1つにつき、1曲ってルールを基本にしてるんだよ。そう言っておきながら、このバンドは2曲にした。愛してやまない。この曲が収録されているアルバムの邦題は「大狂乱スレイド一座」。それで分かってもらいたい。このプレイリストを公開しようと思ったのは、彼らをみんなに知って欲しかったからだよ。 


Slade - We're Really Gonna Raise The Roof

 

7.Slade / The Whole World's Goin' Crazee

スレイドをもう1曲。これはヒット曲なので聴いたことのある人もいるかもしれない。思いっきりくだらない。ロックってバカバカしい音楽なんだなと。物事ってのはあまり深く考えない方が得だというのが良く分かる。そんなのは哲学者に任せておけばいい。


Slade - The Whole World's Goin' Crazee

 

 8.Ramons / Rockaway Beach

偉大なバンドだ。この人たちの楽曲ならなんでも、このプレイリストにふさわしい。だからときどき入れ替えてる。今回は一応これで。AメロとサビのBメロ、さらにCメロもあって、最後のサビの繰り返しの前にしっかりドラムソロっぽい何かも入って、曲は2分しかない。研ぎ澄まされたテキトーというのはこういうことさ。


RAMONES - Rockaway Beach

 

9.Doobie Brothers / Take Me In Your Arms

一般的には『チャイナグローブ』とか『ロングトレインランニング』とかが有名だと思うが、飽きのこない単純さという点ではこの曲が一番いいと思う。このバンドらしさも感じられる。ライブでも人気曲で、メインを張っていたトム・ジョンストンが抜けた後も演奏されていた。


The Doobie Brothers - Take Me In Your Arms (Rock Me A Little While)

 

10.Van Halen / Panama

このくらいでだいたい分かってきてくれたんじゃないかと思うが、あえてそのバンドの最も有名な曲をはずすってのがパターンなんだよ。ヴァンヘイレンなら、もっと有名な曲がたくさんある。これもヒット曲だけどね。絶頂期のアルバムに収録されている。この曲の何が良いって、デヴィッドリーロスの「ワオ!」の回数が多いところ。こいつは「ワオ!」だけ言っていればそれでいい。


Van Halen - Panama

 

11.Kid Rock / All Summer Long

急に時代が飛んで申し訳ない。とは思ってない。アメリカ人には、いつの時代もこういうのを制作する人が必ずいるし、今後も永遠にいるべき。ウォーレンジヴォンの有名な『ロンドンの狼男』のリフをそのまんま使うという大胆というか、賢くない感じが素晴らしい。それから何だ、この頭の悪そうな女がいっぱい出てくるPVは。ゴキゲンじゃないか。デトロイトに乾杯だ。


Kid Rock - All Summer Long OFFICIAL MUSIC VIDEO.mp4

 

12.Style Council / Walls Come Tumbling Down

1980年代のオシャレロックの代表格。今聴いてもいいと思う。単純なポップスは力強い。ポールウェラーの絶頂期はここだと思う。後ろを振り向かない疾走感こそロックだよ。


Style Council, The -- Walls Come Tumbling Down!

 

13.Nick Lowe / Cruel To Be Kind

ここまで付き合ってくれた人にとっておきの名曲を教えるよ。1979年発表。時代なんてちっとも前に進んでないと思うし、それでいいんだよ。好きなミュージシャンを訊かれてニック・ロウって答えておくと通ぶれるから、そういう点でもおすすめ。


Nick Lowe - Cruel To Be Kind

 

14.Elvis Costello / Welcome To My Working Week

コステロだ。こいつは最高にカッコいい。オッサンになってからスタンダートナンバーのカヴァーをやって歌唱力のあるところを見せたりしていたが、やはり若い頃の活気あふれる時代の曲がいい。これはデビューアルバムの1曲目。最大の長所は曲が2分以内というところ。始まったらすぐ終わる。いさぎよい。ちなみにプロデュースはニック・ロウ。低予算であっという間に制作されたアルバムだから勢いがある。

youtu.be 

15.Billy Squire / Everybody Wants You

一時期ワッと流行ってすぐいなくなった人。単純なリフを作るのが恐ろしく上手かった。ギターを初めて1週間くらいで弾けるようになるくらいに簡単。どっかの大きな会社の御曹司らしい。この他にも楽しくバカっぽい曲をたくさん作っている。


Billy Squier - Everybody Wants You

 

16.Beck / The New Pollution

天才。


Beck - The New Pollution

 

17.Me First And The Gimme Gimmes / Uptown Girl

このグループの曲ならなんでもいい。どれ聴いても全部同じなんだよ。こいつらは何をやってもこうなる。


Me First and the Gimme Gimmes - Uptown Girl

 

18.Apostolic Intervention / Madame Garcia

1960年代の英国のモッズ一味。"Tell Me"というヒット曲もある。サイケデリックロックのハシリみたいなグループ。大きな成功には恵まれなかった。これは最高にカッコいいインスト。


The Apostolic Intervention - Madame Garcia

 

というわけだ。これでだいたい1時間になる。

 

 好評ならまたやる。面白いとかつまらないとか、なんか言ってきてくれるとうれしい。主に称賛してくれ。批判はするのもされるのも得意じゃないんだ。こういうのを聴きながらダラダラと仕事して、アニメや映画を観て、ロマンノワールを読むのが白瀬コウの人生だ。

 公園には今日も子供たちが大勢やってくる。子供と言える時期は短いから、それを満喫してもらいたいと思う。

 感想を待つ。またね。元気で過ごせよ。

 

 

 

「謎の彼女X」~卜部美琴は俺の彼女だ~

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「謎の彼女X」2012年作品

 

原作:植芝理一講談社月刊アフタヌーン」連載)

監督:渡辺歩 シリーズ構成:赤尾でこ 総作画監督:金子志津枝

制作:フッズエンタテイメント

 

《失われた青春が、そこにある》

「謎の彼女X」は、平凡な高校2年生・椿明が謎めいた転校生・卜部美琴の「よだれ」をなめてしまったことから始まる恋愛物語です。

 

携帯電話もネットもなく、どこか懐かしさを感じる世界を舞台に、この奇妙なカップルは徐々に心を結び合わせていきます。「よだれ」で心が通じ合うというトリッキーな設定に、純愛ともいうべきストーリーをかぶせ、極度に圧縮された濃密な空間を作り上げています。

 

妄想でも想像でもない本物の恋愛、そして性愛へと踏み出そうとする思春期の若者が感じるであろう「もどかしさ」や「切なさ」を、ときにユーモラスに、ときにエロティックな仕掛けとともに描いた作品です。卜部美琴という空前絶後のヒロイン。彼女に翻弄される快感をじわじわ味わえる名作です。

 

 1.卜部美琴という「異物」

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この物語は平凡な高校生である主人公の椿明の日常に、卜部美琴という異物が挿入される話です。お姉さんに弁当を作ってもらい、休み時間には友達とふざけるというありふれた日常が、卜部の登場によって彩りを変えていきます。卜部は転校生として登場します。むしろ転校生でなければならない。あらかじめ「変わった女の子」として周囲から認知されていてはいけない。卜部美琴という特殊な設定の女の子を知っていくことが、物語そのものになっている必要があるからです。上は第1話、卜部が椿の部屋に上がりこむシーン。このベッドへの座り方の不躾さが卜部の異物感を良く表していると思います。

 

椿が卜部美琴という女の子を知っていく過程は、日常に異物が入り込んでいく過程そのものです。視聴者は椿とともに、自分に異物が挿入される感覚を味わっていくことになります。卜部美琴を演じられた吉谷彩子さんの声は、まさに異物でした。今までのアニメ声優フォルダになかった声。彼女の声だけ、どこか違うところから聴こえてくるようでした。絶対に真っ当ではないこの物語にジャストフィットしていました。

 

2.椿明との一体化

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「謎の彼女」と付き合うことになる主人公の椿明。これは彼の強い一人称語りの物語です。小説でいえば「僕は」で始まる。特に第1話第2話は意識的に椿視点でストーリーが展開します。「椿明が見たもの・聞いたもの・感じたこと」がそのまま画面と音声を通して視聴者に伝えられます。視聴者は椿と一体化して卜部美琴を体験することになります。

 

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上は第2話より。椿明に向けられる卜部の指先は同時に視聴者に向けられています。私たちはこのとき、卜部美琴から、そしてこの作品そのものから「これを受け入れるか」と問いかけられています。卜部を受け入れ、この異物を挿入できるかどうかにこの作品の受容/非受容がかかっているわけです。

 

ここに巧妙な罠が仕掛けられています。この「よだれ」は「甘い」のです。異物を受け入れたらそれは快楽に変わる。しかも、「よだれ」は「絆」であると卜部は言います。よだれを受け入れたら、椿(=視聴者)は卜部美琴という美人の恋人を得ることができる。異物挿入を受け入れることが快楽であり、満足感を生む世界。倒錯的かつ、ある意味痛快な物語と受け取りました。

 

 3.絶対的勝者である卜部美琴

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 二人は物語の第1話から恋人として付き合い始めます。こういうストーリーは非常に珍しい。「恋に落ちる→心を通わせようと努力する→恋人になる→ハッピーエンド」という展開が普通のラブストーリーでしょう。『謎の彼女X』は付き合ってからの物語です。二人は徐々に恋人らしくなっていきます。その過程が緻密に、丁寧に描かれていきます。

 

この物語で秀逸なのは、椿が卜部を「性の対象」として意識しているのが明確であることです。抱きしめたい、できればキスをしたい、できればもっと先のことをしたい、と椿が思っていることが彼の夢という形で表現されます。恋愛というのは「性愛」を伴うものです。高校生であるなら、彼女ができたら早く実際に体験してみたいと思うのは当然でしょう。しかし、この当たり前とも言うべき描写がアニメでは出来ない。生々しすぎるからです。ギャグにして乗り切るのが関の山。ところが、この物語は「よだれで通じ合う」ことを契機にそれを易々と乗り越えていきます。

 

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 卜部美琴は非常にクレバーな女の子です。彼氏である椿が自分をそのような対象として見ていることを承知しており、しかもそれを別な形で満足させます。キスどころか体に触ることも許さない代わりに、自分たちだけが通じ合える方法で、椿を誘導していきます。卜部は数々のエロティックな仕掛けを用いて、恋愛におけるあらゆる場面に勝利します(上のキャプ画は第7話。この姿を椿は見ることができない)。椿は卜部に敗北し、忍従するしかない。そして調教・馴化されていきます。もちろん視聴者も。

 

しかし、この敗北のなんと甘美なことか。卜部は繰り返し「絆の強さ」を椿に証明します。自分の彼氏はあなたしかいない、と。それは二人にだけ分かる特別な方法で椿に伝えられます。椿(=視聴者)の想像を遥かに超える濃度で卜部の思いは迫ってきます。そして与えられる甘いご褒美。椿も自分の彼女は卜部以外にありえないことを毎回のように心に刻んでいきます。「その発想はなかった」とは良く知られたネットジャーゴンですが、まさにその連続でした。

 

二人は恋愛をしているカップルとして、徐々にお互いを知り、影響を与え合っていきます。卜部にも変化が訪れます。そのたびごとに、また二人の結びつきは強くなっていきます。二人の心情の変化が様々な比喩、演出によって緻密に描かれていきます。物語では一貫して、椿と卜部の「愛している」が変奏曲のように次々とアレンジされて提示されます。最初から最後まで、「愛している」「好きだ」としか彼らは言っていない。そこに卜部の大胆な仕掛けが加わる。結果、『謎の彼女X』は純愛とエロスの両立というアクロバッティックな冒険に満ちた野心的作品となったと思います。

 

4.「あの頃」に引き戻す装置

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明確な時代設定のない話です。携帯電話のない世界。しかし、明確に「ない」とは言ってない(「ない」ことの証明は難しいわけで)。正確には「使っているところがない」と言った方がいいかもしれません。

 

-携帯電話の普及率は1998年に50%を超え、2003年に90%を超えています。高校生が当たり前に携帯電話を使うようになったのは、この5年のあいだでしょう。

 

また、主人公の椿明の部屋には「2001年宇宙の旅」(映画・1968年公開)や「スターウォーズ」(映画・1977年公開)のポスターが貼ってあり、アニメ「ビッグ・オー」(1999年)のフィギュアが置いてあります。おそらく原作者である植芝理一先生のご趣味かと思われますが、不思議な空間です。他にも、ポラロイドカメラ(上のキャプ画は第6話)、公衆電話などが登場します。

 

原作の絵柄を引き継いでいるため、個々のキャラクターのデザインがひと昔以上前の雰囲気をかもし出しています。いわゆる「萌え」が定着する前のデザイン。卜部美琴は萌えキャラの「男の子に都合のいい女の子」ではない。そのような女の子が「私があなたの彼女だよ」とさらっと言うわけですから、そのインパクトには絶大なものがあります。

 

視聴者はいつでもいい、自分の好きな時代にこの物語を設定できます。登場するアイテムはどこか懐かしさを覚えるものばかり。自分の青春時代でいいのです。私も思わず自分の青春時代に脳内設定して楽しんでいました。まだ携帯電話が普及していなかった頃を覚えている方(たぶん深夜アニメを観る方はほとんどその年齢だと思います)は皆そのようにして楽しんでいたのではないでしょうか。

 

 5.失われた青春が、そこにある

みなさん(と、突然話しかけますが)、ご自分が高校生のとき、「彼女」はいましたか? 私はいませんでした(キッパリ)。好きな女の子はいましたね。

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『謎の彼女X』はほぼ椿明と卜部美琴の二人のみでストーリーが完結します。非常に濃密な物語です。懐かしい意匠をまとった画面に強烈な磁場が発生し、思わず「あの頃」に引き戻されていきます。私は強く自分の青春を意識させられました。たいしたことはなかった青春時代です。実にどうでもいい、ありふれた青春でした。

 

たいていの青春というものは、たいしたことはない。華やぎがあってもそれは一瞬のことでしょう。おおかたの時間は無為に過ぎていったはずです。しかし、この物語に一体化した途端、その記憶が上書きされていきます。椿明は自分だ。その自分は卜部美琴という美人の彼女を手に入れ、そして強い絆で結ばれることになる。この作品に接するとき、椿を通して私たちは卜部を体験することができる。たいしたことのなかった青春がまぶしい彩りをまとい、姿を変えて現れてくるような思いになることができます。

 

卜部は普段、素顔を見せません。長い前髪に両目が隠れています。可愛い素顔を見せるのは椿に対してだけです(上のキャプ画は第11話。この表情は椿しか見ることができません)。視聴者である私たちは、椿と一体化し、「自分だけの卜部」を持つことができます。卜部の可愛らしさを知っているのは自分だけなのです。卜部の過去は一切明かされません。たった今、自分の目の前にいる卜部がすべてです。卜部美琴は他の誰でもない、自分の彼女です。

 

卜部は、かつて私が好きだった女の子にかけてもらいたかったセリフをなんの躊躇もなく口にします。「私があなたの彼女だよ」「さ、一緒に帰ろ」「私たちにはこんなに強い絆がある」「私の彼氏はあなただけだよ」などのセリフの持つ、なんと甘い響き。自分の青春時代と重ね合わせて思うと、卜部と椿の関係がほほえましくもあり、ねたましくもあり、憧憬に似た気持ちを抱きました。

 

「失われた青春が、そこにある」とは、講談社の編集者の方がイベントで仰っていたことばです。これを聞いて、作品のすべてを見通すことができるように思いました。自分の、あのつまらない青春は卜部によって書き換えられる。物語を受容することを認め、卜部美琴を知っていくことで青春の形も色も書き換えられていく。卜部はゆるぎない愛を持って接してくれます。ちょっとエロティックなのもうれしい。夢のようではないですか。

 

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 オープニングで、卜部と椿が学校をさぼって海にいくシーンです。輝くような二人の笑顔。そこにかぶさる素晴らしい楽曲。吉谷彩子さんの透明感のある歌声。毎回、ここの場面で涙が零れ落ちるのを抑えることができませんでした。失われた青春が、そこにある。どんなに望んでも取り戻せない青春が、きらめきを伴ってよみがえってくるとき、人は涙を流すものだと知りました。

 

 6.話数で好みのもの

脚本・演出・作画すべてにおいて、毎回高いレベルで安定していました。ストーリーのうえでも作画のうえでも「お休み回」がなく、どれを選んでもいいくらいですが、この作品の魅力を特に良く伝えていると思われる3話を選びました。まだご覧になっていない方もいらっしゃると思いますので、ストーリーの詳述は控えめにしました。

 

第2話「謎の絆」

脚本:赤尾でこ 絵コンテ:渡辺歩 演出:所俊克 作画監督:磯野智

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驚きとエロティックな仕掛けに満ちた回。上は卜部の「必殺技」が発動するシーンです。この話数で「このアニメは何をやるのか」が明らかになったと思います。ふたりの恋愛関係は卜部によって主導される。椿は卜部との関係を進めたい。しかし、卜部は体に触れることすら許してくれない。椿はこれでいいのだろうかと悩む。そこに卜部はひとつの解答を与えます。「私たちには絆がある」と。それをこれ以上確実なものはないという方法で椿に教えます。

 

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廃墟となったアパートで卜部が全裸になるシーン。椿は目を開けることを禁じられています。廃墟、そして蟻が群がる昆虫の死体。それと対比され強調される卜部の肉体。ほとばしる生命力、そして力強さ。性愛とはまさに生きる力であることをまざまざと見せ付けてくれます。エロスとは何かをこれほど明確な形で表現した作品はなかなかないのではないでしょうか。

 

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落としどころが実にチャーミングです。卜部は椿に永遠に勝ち続けるであろうことを示したラストシーンの一部です。椿(=視聴者)は、卜部の謎を教えてもらうことはないのです。少しずつ、ご褒美を与えられながら、彼女に馴化されていくしか方法はない。そのご褒美はベタなほどに甘い。このカットを含む一連のシーンの完成度の高さ。演出が素晴らしい。「あのね、椿君」から始まるセリフは完璧(吉谷さんの「サ行」の発音が素敵です)。

 

第6話「謎のステップアップ」

 脚本:赤尾でこ 絵コンテ:若林信 演出:江島泰男 作画監督:高橋瑞香

作画監督補:をがわいちろを 中村晃太郎

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 この作品はスタッフがかなり豪華でした。渡辺監督以外の方が絵コンテ・演出を担当されたなかで私が最も好きな話数です。折り返し地点にふさわしいエピソードを、密度の濃い脚本、的確な演出で表現していました。

 

卜部は基本的にあまり表情のない女の子ですが、この回は様々な感情を見せてくれました。第4話で得た唯一の同性の友人・丘歩子にからかわれて顔を赤らめる。上のキャプ画は椿から初めて下の名前で呼ばれて振り向いたときの表情です。可愛い。卜部の素顔の表情はシリーズ全体を通して常に力が入っていました。ヒロイン超特化型アニメであったといえるでしょう。

 

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 ポラロイドという懐かしいアイテムが出てきます。使い方が巧みでした。嫉妬・悲しみなどのマイナスの感情から、一気に反転し、椿が自分の彼女は卜部だけだと語るシーンは感動的でした。

 

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そのポラロイドで撮られた卜部の表情。軽いいたずら心が可愛い。これは卜部にとって、彼氏である椿にしか見せない表情。二人の距離が縮まり、より濃度の高い後半の話へとつながっていきます。卜部が嫉妬し、そこからこの表情へと至る脚本、演出が素晴らしい。椿の誠実さ、優しさに共感を覚えました。

 

 第8話「謎の感覚」

 脚本:赤尾でこ 絵コンテ:渡辺歩 演出:所俊克 総作画監督代理:鎌田晋平

総作画監督補:薮本和彦 板垣彰子 作画監督:磯野智 赤尾良太郎

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後半は濃厚な話が続きますが、これはそのなかでも白眉。「ハイレベル」とは、放送中にネット上に飛び交ったことばですが、これはまさにハイレベルでした。後から知ったことですが、渡辺監督は原作のこのエピソードを是非やりたかったのだとか。納得の回です。

 

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この話数では、ほぼ椿と卜部しか出てきません。椿の姉と丘がそれぞれ1シーン出てくるのみ。思春期のカップルにありがちな危うい瞬間をとらえた、切なくてエロティックな話数です。脚本、演出、作画、音響のすべてが二人の関係のわずかながらも重大な変化を丁寧に描き出していました。

 

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この話数では、卜部に大きな変化が訪れます。自分の中にある女性としての魅力を好きな異性に発見してもらえた悦びと恍惚、そしてそれがもたらすであろう性愛へと踏み込むことに対する恐れ。卜部は椿によって「感覚が変わる」体験をします。これらすべてを「耳をつかまれると涙が出るようになる」ことで表現している。ラストで椿に耳をつかまれて涙をこぼす卜部の表情がエロティックでした。好きな人から感覚を変えられることを丘から聞いた卜部のひざがくいっと動くカットがありますが、巧みな表現だと思いました。

 

ところで、なぜこの名作が知られざる作品となってしまったのか考えてみました。

 1.ハイレベルということ。

 第1話のハードルがかなり高い。ここで視聴を打ち切ってしまった方は相当数おられることと思います。ダメな人にとっては徹底的にダメでしょう。悪趣味に思われた方も多いかと。そこを乗り切れたら、あとは甘酸っぱい純愛のストーリーが待っています。

2.古臭い感は否めない。

 いわゆる「萌え」という概念が一般化したのは2000年に入ってから。この作品はそれより以前の絵柄。キャラを見て「可愛くない」と感じ、設定のトリッキーさについていけないあまり嫌悪感を抱いてしまう方は多かったのではないかと推測します。

 

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以上です。お読みいただいてありがとうございました。他の記事もお読みいただければ、うれしいです。

 

 

 

 

 

 

はじめに

趣味のアニメや、半ば自分の人生といってもいいロマンノワールなどについて、日々考えていることを綴っていきます。読んだ人が何かを持ち帰ってもらえるような記事が書けたらいいと思います。ブログタイトルはジム・トンプスンのノワール小説「ポップ1280」から取りました。西暦の数字に合わせたというだけです。毎年変わることになりますね。直木三十五のようなものです。

心がけること

1.読みやすい文を書く。

2.楽しんでもらえる努力をする。

3.マメに記事を書くようにする。